あくまのひだりて

「獣手」を見た。

応援したくなる映画だった。何の情報もなく見に行った。自主制作のような映画なのか、制作会社のクレジットも出ない。いきなり始まる。底辺の暮らしをする男の話だ。段ボールで玄関をふさいだボロボロの家で、盗んだビールを飲みながら、カセットコンロで温めたアルミホイルの1人鍋を食おうとする。そこに一人の訪問者。かつての知り合いで刑務所帰りの男。明らかに力関係で上にいると思われるその男が、作っていた鍋を食ってしまう。そして、その男がいつく。女も連れ込まれる。底辺の暮らしに暴力による支配が加わる。始まりからして暴力的で地獄的。暴力支配の抑圧デイズ。それが途中から一転する。映画がいきなりB級ホラー感の漂うモンスター映画になる。そして始まるモンスターと妊婦の逃避行。ハッキリ言ってむちゃくちゃだ。けどお金なんかねーけど、何か仕掛けてやろう、驚かせてやろう、ひっくり返してやろうという気概に溢れている。お金はない。けど熱量が作品を安っぽく見せない。荒削りさが、パワフルさに転じている。上映後の舞台挨拶でこの映画のプロデューサーと主演もしている福谷孝宏が満席には足りない客席の前で一生懸命しゃべっていた。そんな一生懸命さに思わずぐっとくる。作品として完璧ではない。でも熱がある。毎日舞台挨拶をしているという。手作りで映画を作って、コツコツと手売りしている。そんな映画を思いがけず体験した。何かすごい気迫があった。特に前半の抑圧された日常、あそこをもっと見たかった。とにかく応援したくなる映画だ。

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