「エル・スール」を見た。
結末が記憶と真逆で驚く映画だった。「エル・スール」この映画、劇場で観るのは二度目、30年ぶりくらい。あの頃、まだ学生だった。覚えているのは幼い娘が父と踊るお祝いのシーンと、成長した娘と父がレストランで食事をするシーンだ。そのレストランでまた父と娘が踊ったように記憶していたのだけど、それは間違いだった。踊っていたのは別の人たちだ。でもそのシーンで、かつて2人が踊った曲が流れた。だからそう記憶していたのかもしれない。記憶とは曖昧だけど、どこか正しかったりもする。さて、30年ぶりに見たわけだけど。あの頃、この映画がわかったのか?!ってくらいものすごく残酷で、きつい映画だった。画面自体はすごく美しい。まるで油絵のようにしっかりした陰影で、さながら宗教画のようだ。これは父の神性を際立たせる。幼少期、少女にとって万能の神のような存在として父がいる。父は世界の全てを知っていて、大きな存在で、不思議な力を持ち、何でもできる。そんな父を敬愛し、無条件に受け入れる。しかし、次第に父が人になっていく。わからない存在になっていく。自分の成長と共に完全に距離ができる。万能と思っていた父が、無力な人に思えてくる。街中でタバコに火をつけられない父の姿ひとつでそれを見せる。しょぼくれた小さな人になっていく。成長した娘と父。かつて楽しく踊った曲を聴きながら、2人は気まずくレストランで食事をする。そこで静かに決定的なことが起きる。結末は、何とも残酷である。とてもひどい。いや、最低!だ。父の他者性についての映画である。人になった父の最後の決断は、あまりにも…である。こんなに闇の深い映画だとは当時思わなかった。なぜか郷愁感のあるきれいな映画として記憶していた。わたしの記憶の中では2人は最後にまた共に踊っていた。真逆だった。30年くらいしたら、映画を見返してみるものだと思った。