ちちをしぼれば…

「ファースト・カウ」を見た。

映画史上最もドキドキする乳搾り映画だった。西部開拓時代のオレゴン。料理人と中国移民の男2人のスモールビジネス。それはドーナツ作り。ただし牛乳はない。その土地にいる牛は一頭だけ。有力者の土地にいるただ一頭の牛。さー牛乳をどうする?これがなかなか牧歌的で、でもめちゃくちゃ怖い。牛乳泥棒をしながらのドーナツビジネスというとても小さな物語。これがシンプルながら、根元的なビジネスのあり方そのものを描いているようで実に奥が深い。はじめ銀貨5枚で売り出す。それが完売すると翌日から値が上がる。行列ができ、買うためのシステムのようなものができる。貨幣そのものも一定ではなく価値のあるものならお金でなくても交換の対象になる。ビジネスが回り、少しだけ話が大きくなっていく。これがじつに面白い。ただこの映画が描き出す根っこはそこではない。描いているものは世界そのものの厚みだ。200年前のアメリカの野蛮で残酷で容赦のない世界、そしてそこに暮らす人々の実存感だ。映画的な説明は排しながら、でも圧倒的にそこに暮らす人たちの存在感を実際にそこにあるかもしれないくらいのリアリティで描き出す。まったくドラマ的ではない。だからこそ小さな話が際立つ。小さな野心と、小さな成功、そして純粋でピュアな友情。とても小さい2人の存在が、残酷で無慈悲な世界の中に光ってみえる。この対比。とてもきれいな映画だった。

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