てんさいのきょり

「マエストロ: その音楽と愛と」を見た。

距離感を感じさせる映画だった。孤高の天才。ゆえの苦悩。凡人にはわかりえない天才の天才性。しかしやはり当然ながらも彼もまた人間である。ありのままに生きるわけにはいかない苦悩。抱える苦しみ。それらを見せつつ、そして見せない、という微妙な距離感で語りきる映画だ。天才の偉業について、映画ではその実績をあまり描かない。メインで描かれるのは夫としての父親としての彼だ。随所で描かれる彼の実績は、時に映画の雰囲気をがらりと変えたミュージカル調に転じ、またあるときは一曲を指揮する圧倒的なパフォーマンスを10分近く長回しで見せてくる。功績を説明するのではなく、パフォーマンスとして見せて圧倒的な説得力をもって納得させてくる。実に見事。感情を吐露するシーンではカメラは極端に引いてロングショットになりその表情を見せない、誰かと近くにいてもその心理的距離が離れているような感情が表に出ていないシーンではカメラはぐっと寄って人物をクローズアップする。何を見せて何を見せないか、その計算で見事な余韻を残す映画だった。天才がゆえに不幸を背負うというような通り一遍の描き方をしていない。じつに映画らしい映画だった。すぐにNetflixで見れるみたいだけど、これは劇場で見るべき映画だ。ブラッドリークーパー、役者としてもすごいけど、じつにとんでもない監督だ。

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