そのはざまをみる

「君は行く先を知らない」を見た。

行き先のわからない映画だった。家族4人と1匹の犬が車で移動する。どこへ向かっているのか、彼らが何者なのか、何をしようとしているのか。なかなかこの旅の行き先がどこか観客にはわからない。イランの国境付近。車中ではしゃぐ幼い息子が、持ってくるなと言われたケータイを持ってきていることから話は始まる。なぜケータイを持ってきてはいけないのか。そして母親はSIMを取り出してケータイを捨てる。なぜそこまでするのか。この旅が危険を伴う何か特別なものであることが示される。なんでもない旅として振る舞う家族。その空気をあえて壊すように、はしゃぐ幼い息子。ほとんどが車中での何でもない会話で話が進む。その様子は深刻ではなく、むしろコメディである。次第に車中の会話の断片から、この旅の終着点がぼんやり見えてくる。そしてラスト。感情を大きく動かす出来事が起こるその場面で、カメラはものすごく遠い所から、人物が米粒のようにしか見えないほどの引きの長回しショットでその風景をとらえる。その余韻、そしてそこからの結末、じつに見事だ。ある喪失と、ある希望についての映画。その狭間を体感するような映画だった。

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