じんわりよかった

「夜明けのすべて」を見た。

じんわりと当たり前に気づかせてくれる優しい映画だった。原作と全然違うじゃん!と思いつつ、でもきちんと小説の空気感が見事に描かれている。映画と小説は描けるものが違う。違っていても見終わったあとは、きちんと同じ気持ちを持って帰れる、いい映画改変だ。仕事も違うし、人物設定もだいぶ違う。社長の水虫の話とか、小説でいちばん爆笑したボヘミアンラプソディのくだりとかはなかった。けど主演2人のキャスティングが最高にはまっていて、これはまぎれもなくあの2人だ。読み終わって、映画化を知って、主演の2人の名前見て、上白石萌音はまさにそのまんまだし、松村北斗もよき感じになりそうって思ったら、ほんとに見事にそのまんまな雰囲気で、それが完璧だった。最初に2人が打ち解ける散髪シーンとか最高よね。バカみたいなこと、小さな失敗、そこに生まれるささやかな笑い、間違えることや、そのおかしみが人生を支えるんだよね。失敗は神だ。人生のままならなさ、逃れられない喪失だったり、自分の意志でどうにもできない自分の感情や身体の不自由だったり、多くを語らずにみんな何かを背負ってることを静かに語っている。そんなままならなさ、生きにくさが、優しさを生む。みんなが助け合うって、言葉にすると嘘くさく聞こえるけど、結局良い環境っていうのは、押しつけがましくなく、無言でそれができている場なんだよね。それをやはり多くを語らずに描いている。みんな何かを抱えている。生きにくさを抱えながら、抱えた者同士だから一緒にいられるという奇跡がきちんとそこに生まれる。じんわりいい映画だった。

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