ことばがでない…

「ビヨンド・ユートピア 脱北」を見た。

言葉が出てこない。そんな映画だった。なんだこれは…。再現フィルムを使わずリアルに脱北する家族をカメラで収めたドキュメンタリー。これはとんでもない。80歳の祖母と小さい孫娘を含む5人の家族が北朝鮮を抜け出す。警備の目を逃れるため、深夜の密林や山道を徒歩でいく。中国から何カ国も国境を越え、タイを目指す。過酷なんてもんじゃない。地獄だ。よくこんな小さな娘が泣き声ひとつ上げずに…80歳の体力でよくここまで…。もう、何も言葉が出てこない。夫婦はこのまま北朝鮮にいたら殺されるという危機感から国を出た。80歳の母は、国に不満がない。将軍様は必死に私たちに尽くしてくれていると言う。無理矢理連れてこられたと。幼い子供たちも将軍様は素晴らしい人だと言う。完全な洗脳だ。逃げこんで一晩を過ごす隠れ家で普通に水道水が出ることに、まるで天国だと感動する。日々の暮らしは水を確保するのも大変なのだという。途中、北朝鮮の暮らしを隠し撮りした映像が挿入される。そこに映される暮らしは、「愛の不時着」で見たそれよりかなり酷いものである。脱北を手配するブローカー達の存在。そしてその手配を仕切る牧師の常にニコニコした表情。でも笑顔の向こうに凄みを感じさせる。その何かは見ていくうちにわかる。この牧師、とてつもない哀しみが背景にある。5人の家族が無事にタイにたどりつけるのか、という追跡の他にこの作品ではもう一つの家族も描く。すでに脱北した母が、息子を脱北させようとブローカーと交渉する話だ。息子は脱北に失敗する。こちらはすべて電話越しに状況が展開される。拘束された息子がどんな目にあっているのか、耳に聞こえてくる話は想像を絶する。絶望するしかない。2つの家族のドキュメンタリー。いまそこで起きている現実。言葉を失う映画だった。

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