たがためにだな

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「存在のない子供たち」を見た。

「両親を訴えたい、僕を産んだ罪で」そんな台詞から始まる映画。出生証明もなく年齢もわからない少年。どうやら彼は誰かを刺したらしい。彼の身に何が起きたのか、それを紐解く映画。「判決、ふたつの正義」「セメントの記憶」と、ここのところとんでもない傑作が続くレバノン映画だ。まずはこの少年の凛々しさというか美しさに心奪われる。とにかくこの子がいい。ただ年齢は分からない。乳歯がないから12歳くらいだろうと言われるが、5歳児のようにも見える。実際の撮影時、彼は12歳だったらしい。シリアからの難民の子供で、10歳から働いていたのだという。まさに劇中の少年と似た境遇にいた子だ。彼の身に降りかかる壮絶な苦難。ちょっとした微笑みの後にはとんでもない悲劇が訪れる、地獄のような日々だ。それを子供らしからぬ機転と行動力で生き抜いていくのだが…。見ていてこの子の両親や大人たちに腹が立って仕方なくなるんだけど、彼らも結局は無力な、ただ生きることだけを考えているふつうの人に過ぎないという。ただ、自分ことしか考えてない大人に対して、この少年は常に自分より弱い誰かを守るために行動していて、それが本当に尊くて胸を打たれた。無力で何もできない存在なのに。この映画に出ている役者たちは実際に似た境遇にいる人ばかりで、もうなんだか現実なのか映画なのかって感じだ。見ていてもちろんこれは完全なフィクションではあるけど「岬の兄妹」のことを少し思い出した。遠い国にある自分たちとは無縁の話とはとても思えなかった。