じいさんがあるく

「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」を見た。

こんなふうに旅が始まったらいなって映画だった。じいさんがただ歩くだけの映画。「まさかの旅立ち」いいタイトルだ。かつての職場の同僚がホスピスにいるという。手紙をもらって、返信を出しに郵便局に出かけて、そのままその人に会いに旅に出る。800キロの道のりを歩いていこうと決断する。旅の道具は何も持ってない。靴も歩くのに向いた靴ではない。本当にふらっと。何の準備もせずに。たぶん、考えたらこんな馬鹿げたことはできない。家に帰って旅の支度をはじめたとたん、なんでそんな馬鹿なことをしようと思ったんだろうって、やめちゃうだろう。何も考えてなかったから、動き出せた。思いがけず何かをはじめる。やりながら考える。歯ブラシとか、最低限の旅の道具を揃える。財布とカードはある。買えば道具はなんとかなる。でも途中で気がつく。お金もいらないな、何もいらないな。すべて捨てて、どんどん野生化していく。ワイルドになっていく。そんな旅の道程がおかしい。人は思いがけず何かを起こしたことで、思いがけないものを手に入れるし、思っていた自分とは違う自分になっていく。地味だけど風通しのいい映画だった。いまはもう文章を書くとことはできなくなってしまったけど、数年前まで映画評を連載していた母が選びそうな映画だなと思った。ちょっとだけ切なくなった。

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