みなにさちあれよ

「みなに幸あれ」を見た。

なんだこの怪異は?という映画だった。何度か予告を見た。妙に引っかかる映画だった。「あんたみたいな若い子がわたしたち年寄りのために犠牲になって」「あなたみたいな娘がおると迷惑なんよね」そんな嫌なセリフが飛び交う予告。あまり見たくないものを見せられるのではないかと、そう期待させる「何か」があるように思えた。評判など特に耳にも目に入れずに劇場に行った。驚いたのは劇場がひと席の空きもなく完売満席になっていたことだ。それほど大々的に宣伝をしているわけでもないこの映画になぜこれだけの人が集まったのか。自分もその中の一人だ。何か呼び寄せるものがあるのだ。家族の隠された秘密を知る映画だ。久しぶりに訪れる祖父母が暮らす田舎の一軒家。その家には子供の頃の嫌な記憶がある。2階の奥の開かずの部屋に何かがいる気がする。変な家だ。そこに何があるのか、大人になって確かめようとする。そういう映画。筋立てだけ見たらホラーだ。でも怖がらせる描写はない。その廊下の扉を開けようとするシーン。振り返ると廊下の反対側の暗闇にぼーっと祖母らしき影が見える。「おばあちゃん?」声をかけるも反応がない。とつぜん、その影がこちらに向かってくる。やっぱりおばあちゃんだ。それが走ってきて、扉に突進してきて、勢いよくぶつかる。反動で戻り、また突進してぶつかる。ただそれを機械的に繰り返す。怖さと言うより、嫌さだ。この映画を支配するのは「怖さ」ではなく「嫌さ」だ。嫌な間が続く。嫌なセリフが続く。普通だと思っていたことが、突然普通でなくなる、その嫌な感じが、じつに自然に、日常の風景のように描かれる。ホームドラマで、何ならコメディだ。テーマ自体は分かりやすいし、短篇マンガか世にも奇妙な物語のような話なんだけど、この独特の語り口が、クセになる奇妙な映画だった。こういう映画を満員の劇場で観るのはまた格別な喜びだ!その状況が一種の怪異にも思える。みなに幸あれ!!!

www.youtube.com