これもわにえいが

「TAR/ター」を見た。

孤高の天才の苦難。何とも息苦しい映画だった。全容は語られない。本当は何があったのか、真相は見る人に委ねられる。それでも真実と思われるものの断片はそこかしこに散りばめてあって、説明こそされないが、わかりやすく丁寧に時間をかけて状況は描かれている。そして冒頭から結末を示唆するようなことが語れていたりもする。わかりにくいようで実はわかりやすいような、でも答えはない、ゆるくいつまでもじわじわと追い詰めてくるとても心理的に怖い映画だった。ただ怖いばかりでもない。冒頭からの天才無双ぶりは気持ちいいくらい浮世離れしていて、自分の子どものいじめに際していじめっこを本気で脅迫するシーンの大人げなさは狂気だし、トイレで一瞬すれ違った相手に一目惚れしてその子に近づくけど完全にから回ってる感じとかは、ちょっとけなげで笑えたりする。しかしじわじわと日常に恐怖が浸食してくる。部屋の奥の暗闇に一瞬見えたような気がする女性の姿、深夜に突如なり始めるメトロノーム、繰り返し聞こえるチャイムの音、奇妙な隣人、これはもう完全にホラーだ。そして個人的には潜在的ワニ映画でもあったのが嬉しい。「なぜここで泳げないの?」気持ちよくボートから川に手を入れていると「滝のところは泳げるけど川にはワニがいるんだよ」そう聞いて、慌てて手を引っ込める。この一瞬で世界がワニになる瞬間がたまらない。そしてラストはまさかのあのゲーム。ラストの解釈は大きく分かれそうだけど、見世物として消費されるエンターテイントの一部に取り込まれたということなのかなーと思いつつ、でもそれもこれも全部実は妄想で、もしかしてあの廃墟は地獄の門だったのではって感じでいろいろぐるぐる妄想が止まらない。最高に好きな映画でした!!待ちきれなくて、仕事ほっぽり出して初日に見てきましたよ!

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