ただよってました

「夜明けの詩」を見た。

対話で紡がれる映画だ。すべて小説家である主人公と誰かの一対一の対話で描かれる。誰と誰が何を話したのか、それが曖昧に幻のように溶けていくような映画だった。どこかの喫茶店で出会う男女。主人公は水を飲み、向かい合った女性はコーヒーを飲んでいる。二人は初対面のように話し始める。人違い?たまたま偶然向かい合って座っただけ?女は男を知らない人だという。女は言う「小説なんて読む人の気がしれない。どうせ作り話でしょう?」男がとあるホームレスの話を始める。男は小説家だ。人の本質とは何かという寓話のような作り話。やがてこの二人の関係がわかる。この女性が失ったものは何か。2人目、待ち合わせて昼からビールを一緒に飲む女性編集者。彼女は最近付き合っていた人と別れたという。3人目、コーヒーショップで偶然会う知り合いのカメラマンは妻が重病で入院中だという。4人目、バーの従業員は今日で仕事を辞めるという。何年も前の事故で片目を失っている。出会う人それぞれが何か大切なものを失った、もしくは失おうとしている人たちだ。最後に対話する相手との会話で主人公が喪失した大きなものが分かる。喪失した記憶の断片がずっと物語の背後にあって、その中をさまよって迷子になっているかのような不思議な浮遊感を味わった。いい時間だった。

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