こわさとなごみと

「Chime」を見た。

なんだか異様な怖さを持った映画だった。いわゆるホラー的な怖さの先にあるような、日本的な怖さを内包しつつ、ただそこにあるだけの日常がカメラの動き、光の揺らぎ、向ける目線や、風景の余白、ただものを置くだけ音の大きさだったり、些細な違和感がとてつもない恐怖を生み出す。45分の中編ながら、一瞬も気が抜けない緊張感があって、見終わった後の疲労感は想像を絶する。ものすごいことも起きるのだけど、それが現実だったのかもわからない。ひたすら自分語りをして人の話が聞けない主人公の感じとか、普通そうに見えてものすごく異様な家族の感じとか、もうずっと悪夢を見てるようだった。なにが起きたかもわからない。何も起きてなかったのかもしれない。そのことが怖い。ひたすら怖い。そんな映画だった。幸運なことに舞台挨拶付きの回を見て、主演の吉岡睦雄さんのお話しが聞けた。「どうも、菅田将暉です」と挨拶してなごませ、撮影の裏話を聞いて和んだ。途中、暗がりの橋を疾走するシーン。映画では左から右に走っていくのだけど、ポスタービジュアルは右から左に主人公が移動している。意味深である。スチール撮影の時間がなくて、2度目を走るために歩いて戻っているところを撮ったものらしく、だから疲れて少し腰が曲がっているのだとか。ちなみにこのシーンの徐々に歩きが走りに変わるスピード感は、こんなふうに走ってくれと監督に渡されたのは「スーサイド・スクワッド」でマーゴット・ロビーが走るシーンの動画だったとのこと。そういう演技指導はここだけだったらしい。料理教室の惨劇をワンカットで撮影するための現場の連携感の話もとても楽しかった。あの怖さがこんな楽しそうに生み出される。映画って素晴らしいな。ちなみに5日の撮影で、毎日早めの解散でとても環境のよい現場だったとのこと。とてもいい話でした。

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