とりかえしつかん

「ほつれる」を見た。

すごいものを見た。開始10分で突然絶望の底につき落とされる。静かに決定的に取り返しのつかないことが目の前で起きる。そのことを友だちにもパートナーにも誰にも言うことができないという行き場のない地獄。そこからじわじわと日常が日常でなくなる様子を淡々と息苦しく描いていく。決定的なことは起きない。起きないからこそ現実的で、常に取り返しがつかない感情にとらわれて、後戻りができない感覚が映画を支配している。とことん追い詰められていく。すごいのが主人公の夫だ。笑顔で暴力を振るわずに「ちゃんと話そうか」と詰め寄ってくる。その圧が怖い。倫理的正義を笑顔と賢さで突きつけてくる。決して怒らない。それに言い返せない怖さ。これ、いやすぎる。この夫が「ちゃんと話そうか」を発動させるたびに、キターーーって感じで思わず笑ってしまった。「わたし達はおとな」の監督なんですよね。モラハラ男の描き方が秀逸すぎです。誰にも言えない悩みに苦しむ女性の日常の中のどうしようもなさをひたすら味わう何も起きない、いやーなジェットコースタームービー。面白かった!!

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