ふくしゅうのたび

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ナイチンゲール」を見た。

まるで最悪な地獄を見るような映画だった。舞台は19世紀のオーストラリア。英国軍の将校に暴行を受け夫と赤ん坊を目の前で殺されたアイルランド人の女性が、復讐のためにアボリジニの青年を道案内に雇い旅に出る話。全てを奪われた女性が復讐する映画、最近だと「ライリー・ノース 復讐の女神」とか、少し前だとジョディ・フォスターの「ブレイブ ワン」とかあったけど、この映画はいわゆるそういう映画とはちょっと違っている。もっと生々しくて、もっとリアルで現実的だ。そんなに簡単に復讐できるはずがない。虫ずが走るような人間のイヤな面をこれでもかと見せつけてくる。そこに描かれる唯一の希望は、道案内として雇ったアボリジニの青年と彼女との心の交流だ。全てを奪われた彼女は、実は自分も誰かを蔑む人間で、無自覚にも奪う側の人間でもあったことに気づき、己に向きあうことになる。一度、離ればなれになった2人が、再び出会って、初めて横並びで歩く対等の立場になったとき、道で出会う二組の人たち。そこで身の毛もよだつ最悪の恐怖と、ほんの少しの優しさを味わうのだが、この優しさで感情が最高潮に達して涙、涙だった。物語はきちんと決着を見せてくれるが、分かりやすい復讐の物語にはなっていない。彼女にとっての復讐の旅が意味を変えてしまうからだ。なんとも強烈で、胸くそ悪くなる最悪な映画なんだけど、余韻には優しさが少し残ります。世界は不条理だけど、希望はありますね。