すなおなしゃしん

 

素直な写真だなと思った。写真展「石川真生 ─私に何ができるか─」を見てそう思った。まず目に飛び込むのは80年代の沖縄のモノクロのスナップである。「クラブスイング・法人歓迎」と書かれた飲み屋の看板がある町の風景。少し前までパスポートが必要だった沖縄の痕跡が残る風景。床に座った女性、隣に寝転んだ女性、床に散乱するオリオンビールとたばこの吸い殻。生々しい日常の痕跡が感じられる写真群。酔っぱらって玄関で寝ている男性や、洗面台に這いつくばってしょんべんを垂れ流す男性。荒々しい日常の臭いが立ちこめている。そんな生々しい写真が並ぶ中、途中から写真の世界が一転する。大琉球写真絵巻と題されたシリーズが始まると、写真から生々しさが消え、突然カラフルな作り物のような世界が展開される。琉球の歴史を写真で再現し、被写体は何かを演じている、そういう写真が並ぶ。このシリーズが展示の半分以上を占めている。琉球国から戦争そして現代へ歴史が移り変わっていく。楽しげにカラフルに演じられた写真の背景には理不尽で残酷なこの地が辿ってきた多くの悲劇やいまも続く問題が眠っている。メガホンを持って海辺で楽しそうに跳びはねる人たちの写真。しかし彼らの訴えは切実だ。そうして演出を凝らした絵巻写真がやがて少しずつ変化していく。演出が取り除かれていき、ただそこにあるものをただ写すだけになっていく。そこにあるものがすでにあらゆる問題を訴えている、そういう写真に変わっていく。撮りつづけるごとにどんどんドキュメンタリックになっていく。被写体によってテーマによって作風が変幻自在に変わっていく。つまりこれはとても素直な写真だなと、そう感じたのだ。

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