その微笑みは天使なのか?


その階段を昇るとき、心はいつも憂鬱になる。
今日は歯医者だ、今年最初の歯医者だ。最悪だ。
あの音、拷問のような、あの音、感触、痛み。
あの診察台に座るたびにいつも思う。
「ぼくそんなに悪いことしたっけ、なんでぼくはこんなめにあってるんだっけ」
今日もやっぱり最悪だ。座って5分もたたないうちに、来たことを後悔し始めた。
15分がんばって耐えた。…まだ終わらない。
20分、痛みがひどくなる。
あと何分耐えればいい?あと5分つづいたら、もうやめて、と言おう。そんなことばかり考える。
もう限界、そう思ったとき、治療していた先生が席を離れた。やった、終わった。と思ったら、また先生がやってきた。どうやらまだ続くようだ。
ぼくは涙目で、もうやめて、とうったえようと、つぶっていた目を開けてその先生に目を向けた。するとさっきまでぼくの歯をいじっていたおじさん先生ではなく、若くて「ぴちぴち」した女の先生が立っていた。まじー、弱音がはけない。
エーカッコーシーな自分を呪った。
それから30分、女医さんは、一瞬見せたぼくの涙目に同情したのか、やさしい言葉をかけ、なんでこんな痛い治療をしているのか説明しながら、ぐりぐり、ごりごり、きゅいーんきゅいーんと、ぼくの歯をいじくり回した。
治療が終わると「よくがんばりましたね」ととってもかわいい笑顔をなげてくれた。
くそーと思いながら「はい」と笑顔で返した自分がきらいだ。


夜、なぜか、母親と新宿で飲んだ。終電で帰ればいいものの、なぜか深夜に文壇バーに行くことになり、朝までそのまま飲んでしまった。何年かぶりに行った文壇バーのママさんは、相変わらずステキな人で、とても上手にはなしをする人で、やはりステキな人だった。だからこの店には難しい人たちが集まるんだろうな、それがよくわかった。