むかうさきはどこ

「佐藤さんと佐藤さん」を見た。

結論から言うと、今年ベストってくらいよかった。ある夫婦の話。佐藤さんと佐藤さん。名字の変わらない結婚。現在37歳。そこから22歳大学生の佐藤さんと佐藤さんが出会って意識し始める瞬間に時間が巻き戻って、ゆっくり15年が描かれていく。きっかけは倒れた自転車。倒れた自転車を起こす手伝いをしてくれるところで初めて意識する。同じコーヒーサークルに所属してる佐藤さんと佐藤さん。2人はやがて同棲する。男の佐藤さんは弁護士を目指して勉強してる。仕事は塾講師のバイトでお金はない。女の佐藤さんが働いて家計を支えてる。男女間の無言の役割分担とほんの少しの経済の格差。その気まずさが少し日常の背景にある。夢のためにがんばる男性とそれを支える女性という関係でバランスをとっていたのに、それが決定的に崩れる。彼の勉強の助けになればと勉強に付き合ってるうちに、彼女の方が試しに受けた司法試験に合格してしまう。そのシーンが最高すぎる。合格発表で落ちた彼の頭に葉っぱがついてる。その残念な佇まい。そこからの気まずさが素晴らしい。2人で入る喫茶店志村けんのひとみ婆さんを薄くしたような店主がいて、ブルーマウンテンを頼んでもなかなか通らず巨大なパフェが運ばれてくる。パフェを食べながらの沈黙。この映画、気まずさとコミカルの配合が絶妙すぎる。実はずっと気まずいし、すれ違ってるはずだけど、その描き方が実に見事で、ただ気まずいだけにならない。日常って、ほんとそうだよねと思う。怒りながらとる行動はバカみたいだし、ムカつくって思うような言動は実はチャームだったりもする。人間関係はその気まずさや、ぶつかり合いや、怒りだったりが混ざり合って、その中にやはり笑いやおかしさも混在する。この映画のいいところは、すごくレイヤーが厚いところ、主人公たちだけじゃなくて、色んな家族の断片が描かれる。一片しか描かれない誰かの人生も複雑で、一辺倒ではない。不幸そうに見えても実は幸せかもしれなくて、ふつうにふるまってる人の背景には、とてもつらい過去があったりもする。総じて、誰も当たり前に幸せなんかじゃない。だいたいみんな不幸を抱えている。一部だけを照射して見るとそれは問題だらけで、おかしなことになってるけど、その集積が実は良き方に向かっていくような、それは思っていた幸せとは違うかもしれないけど、きちんと人生をよくしていく結果に結びつていくし、きちんとそれなりのところに着地する。そういう人の営みの根幹を描いているようで、すごく苦いけど、希望のある映画だなと思った。「ファクトフルネス」ってすごく売れた本があったけど、あれは世界は問題だらけですごくおかしなことになってるけど、数字でみると確実に世界は良くなっているという事実をデータとして提示していて、なんとなくそれに近いなって思った。でも、苦いんだよね。最初と最後が自転車でサンドイッチされる映画だけど、最後の自転車、色んな意味で沁みました。最初と最後で言えばもう一つ、そこだけ出てくる中島歩のキレキレのクズ男ぷりもすさまじかったです。そして途中には吉岡睦雄が例によってちょいクセつよの交番の警官役で出てたりして、それも最高だった。いや、これ今年ベストかも。見終わって、あれ?劇中、音楽かかってなかった?って思ったけど、そうでした?

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