すきやきがにえる

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「すばらしき世界」を見た。

西川美和…なんてものを作ってくれるんだ。ずしんと胸に残ってしまって、心から離れないような、なんともすごい映画だった。なんだろう、これ。本当にそこに三上という人がいたみたいな、そんな感覚。刑務所を出所した一匹狼のヤクザ者が、なんとか堅気として生きようとする話。まっすぐで、根は善人で、でも暴力的で、不器用で、根気強くて、でも短気で、優しくて、でもすさまじい狂気も抱えていて、なんていう複雑な人間像なんだ。とにかく、見ていて、この三上って人物を好きで好きでしょうがなくなっていく。ものすごく人間臭くて、かわいらしくて、怖い人間、それを演じている役所広司のすさまじさ。そして取り巻く周囲の人の演技の厚み。小道具やロケーション、撮影もよかった。食の描写ひとつとってもそれは見事で、出所した日のスキヤキの煮える音、朝のたまごかけご飯、焼き肉やのホルモン、投げつけるカップラーメン、九州で見栄を張ったヤクザの振る舞う豪勢な刺身盛り、就職祝いのスーパーの総菜、ひとつひとつが染みてくる。音楽の使い方もよかった。免許の一発試験のくだりなんて、始まる前からかかるBGMで、笑ってしまった。ああ、なんていうか、そんなことを思い出すだけで泣いてしまう、そんな映画だった。