ほんとうはだれだ

「ある男」を見た。

冒頭のショットからもう最高です。どこかだか分からない場所に飾られた絵を撮った長回し。自分の後ろ姿を見る男の絵。ルネ・マグリットの「不許複製」。その絵が入った額縁の外側にも額縁がもうひとつある。2つの後ろ姿、2つの額縁。どんな映画が始まるか予感させる見事なショット。物語はずっと一緒に暮らしていた人が実は何者だったのか?それを探すミステリー。結局人は隣にいる人が本当は誰かということを本当の意味で知ることはできない。人はどうやってその人が誰だか認識するか。その人の過去は、その人が語る言葉でしかない。初めて会う人に「私は田中次郎で所沢に住んでいて両親と同居していて父が少し認知症で母は去年から足と腰を悪くして車椅子生活で…」と語り始めればわたしはそういう人になる。田中次郎としてその人と暮らし、そのまま4年、5年と生きていくうちにわたしは、わたしの語った人間として他者の中で生きていくことになる。最初に出てきた絵の場所に再び映画が戻ったときに起きること、それがすべてを物語っていて、じつに見事な構成の映画を見たなと劇場をあとにした。それにしてもこの映画、知ってる顔しか出てこない。ものすごい豪華キャスト。見た顔しか出てこない。これもテーマの一環と思っていいのだろうか。名も知れぬその人は本当は何者だったのか?と開発されていく町の中を探し歩くところに、何となく劇場版パトレーバー1を思い出した。

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