ゆらゆらまどろむ

「宮松と山下」を見た。

この映画のすごいところはタイトルを全然覚えられないことだ。見た後、タイトルをメモしようと思って、あれ?名前が2つ、何だっけ?って思ったし、今もタイトルを書こうとして、やっぱり思い出せなかった。決してそれがダメだとか、ケチをつけたいわけじゃない。むしろこれはほめている。それこそがこの映画の肝である気がするからだ。この映画の主人公はエキストラ俳優。名もなき役者。誰からも忘れられるような存在だ。まさにそんな存在をそのままタイトルにしたような、見事なタイトルだと思うのだ。作品自体は、すべてが夢うつつというような、永遠にまどろんだ、まるでずっと幻を見ているような感覚になる作品だった。時代劇の斬られ役として、同じシーンの中で何度も殺された男が、仕事が終わって居酒屋に入ってビールを飲んでいるとそこに拳銃を持った男が流れ込んできて撃たれて殺される。どこまでが現実でどこまでが映画の中の話かがわからなくなる。男は記憶をなくしているという。そこにかつて同僚だったという男が現れる。君には妹がいる、そんなことを言う。何度も訪れる死と、失った記憶と、曖昧な存在についての物語。顔に増えた12年分のシミの数。昔は吸っていたというタバコの銘柄はホープ。ずっとまどろんでいて、ものすごく眠たくなる映画だった。眠くて眠くて何度か落ちかけた。それこそがこの映画の正しい見方だと思う。まどろむ映画なのだ。「覚えられないタイトル」「眠くなる映画」、それこそがこの映画への最上級の褒め言葉である気がする。

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