めつぼうへのみち

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「冬時間のパリ」を見た。

なんかいけすかないタイトルだ。スルーしようかと思ってたんだけど、たまたま時間が合ったのと、「パリの出版業界を舞台にした〈本、人生、愛〉をテーマに」というコピーに、一応その界隈にいる者としてひかれるものがあったので見てみた。軽い恋愛映画を見る気持ちで見たのだけど、すごく後悔した。そんな単純な映画ではなかった。一見すると、いかにもフランスな恋愛映画で、パリで、オシャレで、みんな不倫してて、編集者がいて、作家がいて、皮肉が飛び交って、確かにそうなのだけど、映画の根底には目に見えない巨大な不安というか、これから訪れる未来への恐怖がたたずんでいた。映画の舞台である出版界がまさに今向かっている、先の見えない、いわば絶滅に向かっている道中のあらがいがたい何とも言えない虚しさと無力感。みんなが口を揃え言う「今は転換期だから」。いやしかし明るい未来がどこにもない。一見敏腕に見える編集者ですらもう完全に道に迷っている。メディアの崩壊を目前に、なすすべもなく、でもいかにも格好いいことを言って今日をやり過ごす。そうして滅亡へのカウントダウンが進む中で、本を書いて、出版して、変わりゆく時代を横目に食って、しゃべって、セックスして、信頼して、裏切って、人間とは何と無力な…いや、でもそれこそが人間じゃないのって、そういう映画でした。ある意味、世界の終わりの映画でした。あとで監督を見たら「パーソナルショッパー」の監督だった。あれもセレブの代わりに買い物をする女性の話に見せかけたホラー映画だったし、なるほど、一筋縄でいかない映画であることに納得した。思わぬ拾い物をした。