せめんとのあじ

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 「セメントの記憶」を見た。

見終わって、映画を見たというより、1冊の写真集を見たような感覚になった。とてつもなく重たいイメージの洪水のような映画だった。レバノン映画。ベイルートに建設中のオーシャンビューの高層ビル。その建設現場を淡々と映した作品。言葉による説明は何もない。時折はさまれる声は、そこで働くある男の少年期からの記憶の断片だ。シリアから移民し労働している男たちは、ビルの地下で暮らし、外出は許可されていない。日々、穴から這い出して高層ビルに登りビルを作り続ける。カメラは男たちの顔に極限まで迫っていく。戦争の爪痕と、哀しみとも怒りともつかない表情。劇中、誰一人言葉を発する者はいない。ただ記憶の断片だけがときおりはさまれる。とにかく「見る」ことでしか味わうことのできない何かだった。